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ブログ移転のお知らせ

暫く書きたい内容が纏まらず放置気味でした本ブログでしたが、改めて使ってみるとユーザビリティの悪さが悪辣なまでに酷いという理由から、はてなブログに移行しました。 CYBL0G - Hatea Blog https://cybl0g.hatenablog.com/

THE ZERO / ONE 休刊ついて思うこと

故岡本顕一郎氏が編集長を努め、担当著者はアングラ系や情報セキュリティに特化した面子が顔を揃えた、日本で指折りの情報セキュリティ系Webマガジンの正式な休刊発表が飛び込んできたのは、晩冬の北風が厳しい2018年の12月だった。説明するまでもないが、編集長の左横に「故」の文字が付いているのだからそういうことだ。氏は2018年6月24日の夜、42歳の男に刺殺された。

このニュースはまたたく間に、特にTwitter上ではセキュリティクラスターを中心に、衝撃、そして悲しみを伴って伝わった。各セキュリティ研究者・エンジニアの中には個人のブログで哀悼の念を書き綴ると共に、早すぎる死を悔やんでいた。

と同時に、氏が手がける本誌の先行きを憂慮する声も出始めた。実際問題、本誌の更新は7月1日の「モバイルマルウェアで1日に8000ドルを盗んでいた人間が逮捕」を最後に、2ヶ月以上も更新を絶っていたのだ。その後の12月31日、故岡本顕一郎が手がけた遺作である調査取材「続・日本人マルウェア開発の実態を追う ハッカーとセキュリティ技術者は「文明」と「文化」ぐらい異なる」と同時刻に「『THE ZERO/ONE』休刊のお知らせ」がポストされた。これによりTHE ZERO / ONEは正式に休刊することとなった。

このダブルミーニング的な悲報を受けて、自分は非常に悲しかった。この知らせを受ける前、知り合いのハッカーともTwitterで日々「THE ZERO / ONEのこの先」を意見交換していたからだ。自分は答えた「青山正明が亡き後"危ない1号"は編集長をMaD氏に後任することにより、"危ない28"と言う形で第5巻まで存続したが、あのネタ選び(†筆者注:後述する)とセンスを併せ持つ人間は他に居ないので廃刊、もしくは休刊の運びとなるように見える。いま自分たちにできることは、記事の魚拓を取るしかない」

予想は見事的中した。とんだラッキーストライクだった。

ここで、THE ZERO / ONEの何が素晴らしく、何がフィーチャーだったかをできるだけ述べていきたい。まず、本誌は非常に作り込まれていた。これは筆者に前もっての情報セキュリティのリテラシー在ったからそう感じているわけではない事を留意してほしい。このWebマガジンは、スマートフォンの操作にアタフタしている実家の両親にも、好奇心旺盛な小中高生にも理解できる内容で、かつ記事1つ々の情報が「高度」だった。この逆説的な現象とも、感覚とも表現し得ない特性こそが、THE ZERO / ONEの素晴らしき点であると同時にフィーチャーだった。これは優秀な執筆陣の文才、そして感性、何より岡本編集長の成せる技だった。

そう、本誌の優れた点は日本語で書かれたセキュリティメディアではひときわ目立つ存在だった。雑なまとめ方だと
WIRED.jpScanNetSecurityのハイブリットとも言うべき存在だった。まず、本誌は、サイバークライムから各国の諜報およびサイバー戦争、情報セキュリティを扱った映画やドラマの見どころの紹介、ホワイト・ブラックハットや世界的プログラマーやそれに纏わるムーブメントを扱った連載記事や読み切り記事を掲載していた。そして、どれもコンピューターは無論、情報セキュリティ事情に疎い読者でも「高度な情報」が理解できるような文体、人間を惹き込む知的好奇心を突いたペイロードコードとも言える。

このようなメディアは主に英語と中国語(簡体)そしてロシア語で発信されるセキュリティメディアでは都度見かける形態だが、日本に於いては特殊、いや、このTHE ZERO / ONEだけだったと記憶している(†筆者注:ScanNetSecurityが主に開発者や現場担当のセキュリティエンジニア向けだったのに対し、THE ZERO / ONEは大衆メディアの性質も併せ持っていた)。

そしてこれは完全に個人の事情だが、ただ読み応えがある・愛読していたメディアが休刊という運びになった以外にも悲しい点はある。日本にはセキュリティメディアが圧倒的に不足しているのだ。英文を読めば済む話ではあるが、高度な部分、ブラックハットやセキュリティ研究者が編み出したセキュティのトレンドはやはり優秀な日本人ライターが邦訳したものに限る。その点THE ZERO / ONE は自分のあらゆる要求に答えていた。情報セキュリティとは、その筋のエンジニアや研究者のボーイズクラブではない。実際問題、本職・学業・趣味を問わずしてプログラムを書いているものにとっても重要な知っておかなければならないリテラシーなのだ。例えば自分がコードを組み上げた作品(†筆者注:筆者はプログラミングの成果物を"作品と呼んでいる")には、コードを刻む際の書き損じに起因する未定義動作が含まれているかもしれないし、コンパイラやインタプリタに脆弱性があるかもしれない。いや、発見されていないだけで実は存在するのが脆弱性だ。人間は完全ではないし、即ち完全ではない物が作り出した作品は「安全」だと確言することはできない。

また作品を組み上げる際に使っている(概括的な意味で)エディダや使用しているライブラリ、OS、ファームウェアにも確実に脆弱性は潜んでいる、感の良い人間はまたたく間にこれに感づく。それを悪用するか、ベンダーに報告するかは比喩的に善悪の彼岸に立たされた発見者に委ねられている。

つまり、何が言いたいかというと、全てのデバイス、或いはサイバネティックス的に言えば人体までもをネットワークで点と線で結び(或いは相互的多角形形式で)つける試みがなされている今、情報セキュリティの基本的リテラシーはコンピュータに詳しい者以外の、先に上げた「スマホの操作にアタフタしている実家の両親」や「特に情報科学には無頓着、だが好奇心は人生で一番強い時期の小中高生」にも、情報セキュリティに関する情報を発信していくメディアは今後散在乱立とまでは行かない程度に、日本で増えるべきだと思う。そういった意味では、この「THE ZERO / ONE」は社会的に必要だった。そしてそれだからこそ、岡本編集長の死と休刊が悔やまれてならない。

最後に、岡本編集長のご冥福を心からお祈りすると共に、株式会社スプラウトの皆様に1愛読者として心からお見舞い申し上げます。

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